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【書評】初心者でも楽しめる日本語ラップの歴史書『MCバトル史から読み解く 日本語ラップ入門』DARTHREIDER著

 

 

MCバトル史から読み解く 日本語ラップ入門

MCバトル史から読み解く 日本語ラップ入門

 

 

 

ヒップホップに幸あれ!

 

ーP179 あとがき より

 

 

 

 

最近、日本語ラップの世界が元気だ。

 

 

理由はもちろん、Abem  TVで火曜日深夜に放映されている「フリースタイルダンジョン」の大当たりにあるだろう。ラッパー同士がトラックに乗せてお互いの悪口ラップを即興で言い合う、「フリースタイルバトル」を主題としたこの番組が当たったことで、これまでどちらかというとアングラなイメージがあったジャパニーズヒップホップが、一気に知名度を獲得したように思える。

 

 

さらに、先日はフリースタイルダンジョン発のユニットがミュージックステーション出演を果たすなど、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのジャパニーズヒップホップだが、今回紹介する『MCバトル史から読み解く  日本語ラップ入門』は、そんなヒップホップのシーンに約20年に渡って関わり続けた著者、DARTHREIDER(ダースレイダー)氏による、格好の「日本ヒップホップ史」入門書だ。

 

 

フリースタイルダンジョン」などの視聴を通して、ジャパニーズヒップホップに興味を持ち始めたような方に、特におすすめしたい一冊である。

 

 

 

「ラッパーになりたい人」よりも「ラッパーのことを知りたい人」向け

 

 

 

「入門書」の形をとっている本書だが、いわゆる、「ラッパーとしてのスキルを一からレクチャーしていく」というタイプの本ではない。もちろん、踏韻をはじめとした技術面に言及する部分もたくさんあるのだが、それよりもむしろ、「日本語ラップの世界はこれまでどのような道を歩んできたのか?」という点にフォーカスして書かれた、「史書」としての印象が強い本である。

 

 

だが、こういったタイプの本にありがちな退屈さとは一切無縁で、読んでいて非常に楽しいのが本書の特徴だ。DARTHREIDER氏の文章は非常に読みやすく、分かりやすい。くわえて、著者本人の体験に基づいて書かれている部分が非常に大きいので、全てのエピソードに躍動感があり、引き込まれる。

 

 

フリースタイルバトルで負けたあげく、相手のラッパーの取り巻きに舞台から引きずり下ろされボコボコにされた話や、「フリースタイルダンジョン」でラスボスを務めるラッパー・般若が審査員による判定に不服を申し立て、仲間のラッパーも巻き込んで一触即発状態になる話など、過去のヒップホップシーンがまとっていたアングラな空気がビリビリ伝わってくるようなエピソードが随所に散りばめられている。

 

 

かといって、自分語りの方向にも傾きすぎず、当時のヒップホップシーンを取り巻いていた環境を踏まえた上で「なぜこのようなことが起こったのか」という分析を常に怠っていない。たとえば、般若の件に関してなら、当時のヒップホップ界を取り巻いていた反体制ムードと、フリースタイルバトルの経験があまりない審査員とラッパーの間の認識のズレ、という点をしっかりと指摘して書いている。読者を退屈させず、さらに論理的にもしっかり筋が通っているという、入門書として絶妙なバランスを保ちつつ書かれているので、非常に読みやすいのだ。

 

 

「ラッパー列伝」としての側面も

 

 

また、本書の特徴として、それぞれのラッパーの紹介、分析を非常に丁寧に行っている、という点が挙げられる。

 

 

実は、今これを書いている僕も、「フリースタイルダンジョン」から日本語ラップの世界に興味を持ち始めたクチなのだが、そういった層の視聴者にとって、ラッパー達の像はかなり曖昧なのではないかと思う。

 

 

ラスボス・般若がなぜあれほど強いとされているのか。呂布カルマに「バイバイ  過去のキング」と罵られた漢  a.k.a  GAMIはどのような立ち位置にいるラッパーなのか。毎週登場するモンスターやチャレンジャーは何をもって強いとされているのか。彼らにはどんな背景があり、他のラッパーたちとはどんな因縁があるのか。

 

 

……などなど、様々な疑問を抱きつつも、毎週番組を見てなんとなく湧いていたのだが、この本を読むことでそれがかなり解消され、ラッパーたちの像が随分明確になった。たとえば、僕は今まで「漢さんって皆からリスペクトされてる割にはあんまりフリースタイルバトル強くないよな」と思っていたが、この本を読んだ今では番組内であまり勝てないところも含めて漢さんをめっちゃかっこいいと思うようになっている。

 

 

ラッパーにはそれぞれのスタイルがあり、背景があり、思想がある。それが色濃く出るのがフリースタイルバトルなのだ。ただの器用な言葉のサーカスとしてフリースタイルバトルを見るのもいいが、ラッパー同士の思想のぶつかり合いとして見てみると、また違った面白さがあり、楽しめる。少なくとも僕は、本書を読むことで、フリースタイルバトルをこれまでより何倍も楽しんで見れるようになった。フリースタイル好きの友人との会話のネタ帳にもなるだろう。

 

 

フリースタイルダンジョン」を見て、日本語ラップの世界に興味を持ち始めたという方には、是非是非、強くおすすめしたい一冊である。

 

 

 

MCバトル史から読み解く 日本語ラップ入門

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