zyakiのネタ帳

闇の世界へどうぞ!

【書評】もう我慢して本を読む必要はないのか?『読んでない本について堂々と語る方法』 ピエール・バイヤール 著

 

読んでいない本について堂々と語る方法 (ちくま学芸文庫)

読んでいない本について堂々と語る方法 (ちくま学芸文庫)

 

 

 
 
私はジョイスの『ユリシーズ』を一度も読んだことはないし、今後もおそらく読むことはないだろう。したがってこの本の「内容」はほとんど知らないといっていい。しかし位置関係はよく知っている。
 
ーP34  「ぜんぜん読んだことのない本」より
 
 
 
 
 
昔読んだエッセイの中に「基本的に読書は辛い。」というようなことが書かれていた。そのエッセイの作者はかなりの読書家として知られている人だったのだが、そんな彼でさえ、あとどれくらいで終わるのかを気にしながら読む本がほとんどだと言うのだ。それを読んだ時、僕がどれほど勇気付けられたか分からない。なぜなら、僕もまた、退屈な思いを噛み殺しながら読書に臨む人種だからである。
 
 
なぜわざわざ退屈な思いを我慢して本を読んだりするのだろうか。スマホでゲームをしたり、漫画を読んだり、絵を描いたりしている方が何倍も楽しいのに。もちろん、読書ならではの楽しさというものもあるにはあるが、やはり「読書」という行為に付きまとう「教養」の二文字が、僕のようなエセ読書家を読書につなぎとめる重要なファクターとして働いていることは否定できないだろう。
 
 
僕のような人間にとって、読書は目的ではなく、教養や知識を得るための手段である。つまり、本を読まずに内容を知ることができれば、あるいは、内容について語れるようになれれば、それに越したことはないのである。
 
 
 

読んでいない本について語ることは可能か?

 
 
そんなこんなで手にとってみたのがこちら、『読んでいない本について堂々と語る方法』だ。項数は250ちょっとくらい。僕は2日かけて読んだが、普段から活字に親しんでいる人なら1日で十分読める量だと思う。
 
 
それで、肝心の内容なのだが、これは普段から読書をしない人がいきなり「読んだことのない本」についてスラスラ語れるようになるというような魔法の本ではない。むしろ、一定程度以上の読書経験がある人間に対して書かれた本、という印象が強い。
 
 
本書の語る主張を簡潔にまとめるならば、「本を読むより、本を位置付けろ!」ということである。つまり、一項も読んだことがなくとも、その本がどの時代のどの分野にどのような影響を与えたのかというような「本の位置関係」さえ分かっていれば、それについて語ることは十分にできるし、気後れする必要もない、ということだ。
 
 
この主張に共感できるかどうかが、読者にとってのこの本の評価の分かれ目だと思う。「ぶっちゃけそれって、本読むよりしんどくね?」と感じる人や、純粋に本を読むことが好きでたまらないという人にとっては、あまり読む必要のない本なのではないだろうか。逆に、この作者の主張に対して共感できる人なら読んでみる価値はある。特に、読書に対する信仰や真面目さから、「だいたいどんな本か知ってるけど読んだことはない本」を語ることに引け目を感じてしまうような人ならば、本書によって大いに勇気付けられるはずだ。
 
 
作者自身、フランスの大学で文学教授を務めるほどの知識人であるにも関わらず、自分は読んだことのない本について教壇の上で堂々と語っていると宣言しているし、そのようなことは、知識人と言われるような人ならば皆やっているということを実例を交えつつ、教えてくれる。まぁ、例を小説の中から引っ張ってくるのに関しては「フィクションの話してどないすんねん」と思わないでもないが、時折虚構の話を混ぜることで本としての面白味が増し、読みやすくなっているのは確かだ。
 
 
文体も明確でわかりやすいので、読むのにそれほどエネルギーも使わないと思う。読書は好きだけど本読みと話すのは怖い。そんな人に、是非おすすめしたい一冊である。
 
 
とりあえず僕はドラえもんにでも頼んで、この本を小説神髄とか罪と罰とかを苦しみながら読んでいた大学時代の自分のところに送りつけてやりたいと思うのであった。
 

 

読んでいない本について堂々と語る方法 (ちくま学芸文庫)

読んでいない本について堂々と語る方法 (ちくま学芸文庫)